「熊本県企業立地課✕SUNABACOトークイベント」今こそ地方で起こすイノベーションエコシステム

【イベントレポート】

今こそ地方で起こすイノベーションエコシステム

イノベーションの大きな波の中、DX(デジタル・トランスフォーメーション)が大きな注目を浴びています。2021年12月7日(火)に熊本県熊本市にて、行政先端企業スタートアップトヨタ自動車九州4種4様のバックグラウンドを持つ人材が集結。地方創生とイノベーションにまつわるトークイベントを行いました。

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DXをする上で最も重要なのは基準を作ること。
基準を作るには、棚卸しをすることが必要です。
そこで、棚卸しについて非常にうまく纏められているトヨタ生産方式について、トヨタ自動車九州株式会社植野様に、基調講演をしていただきました。基調講演に続いて、「イノベーションを起こす場を作る」と題し、トークイベントを実施いたしました。

登壇者・ゲスト紹介

植野直亮氏

トヨタ自動車九州株式会社 次世代事業(詳細はこちら

基調講演・ゲストスピーカー

2004年トヨタ自動車九州入社、経営管理部に配属。経理畑プロ人材としてのキャリアを積み18年次世代事業室を立上げ。「もっと笑顔になれる未来づくり九州創生」を目指し、多様なバックグラウンドを持った方々とオープン&スピーディにアイデアをカタチにする仲間づくりの拠点として19年コワーキングスペース「Garraway F」を開設(現在は天神VIORO7階)。「協働協創の現場」のビジネスプロデューサーとして様々な方々と「幸せの量産」に挑戦中。

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今津研太郎氏

株式会社TRIART 代表取締役(詳細はこちら

ゲストスピーカー

九州工業大学知能情報工学科卒。 6歳よりPC6001でアセンブラによる開発を行う。 14歳で業務システム設計等のビジネスに携わり、高校時代に実用レベルのP2Pアプリケーションを開発。大学在学時20歳で起業し、研究開発した技術を社会へ実装する組織としてTRIARTを発足。オリジナルなアプローチで、高効率な解決法や事業設計の立案を得意とする。

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古閑 瑞樹 氏

熊本県 企業立地課 主幹

ゲストスピーカー

IT系企業を熊本県外から県内へと誘致。

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中村良

株式会社SUNABACO 代表(詳細はこちら

コーディネーター

シリアルアントレプレナー
アクセラレーター
UXデザイナー
テクノロジストとして数々のスマートシティ、
シビックテックなど先進プロジェクトをリード。
日本最大級のプログラミングスクールSUNABACO代表としてリカレント教育、次世代の教育に関わる。

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基調講演 / DXのための基準を作る 〜トヨタ生産方式に学ぶ〜

基調講演では、トヨタ生産方式について、また、トヨタ自動車九州が推進するDXの取り組みについてご講演いただきました。

植野氏の自己紹介より。トヨタ生産方式を体系化した、大野耐一氏の鬼十訓より引用したフレーズも。

100年に一度の大変革の時代に

講演ではまず、トヨタ生産方式に先立ち、イノベーションが求められる時代におけるトヨタ自動車の役割についてのお話から始まりました。

CASE革命(Connected, Autonomus, Shared & Service, Electric) を前にしてトヨタ自動車は「自動車をつくる会社」から「モビリティーカンパニー」に生まれ変わりました。
そこで、トヨタグループ一丸となり未来へ挑戦。トヨタ自動車九州では2018年10月に「次世代事業室」を設立しました。その発起人が植野氏です。

「石にかじりついてでも九州のものづくりを守り抜く」

「これからは無形資産(GoodWill)の時代」

将来への期待、が大きく評価される時代

最新技術が社会に広く受け入れられるには「安心」も必要

会社の創意工夫や努力により、株主が「本当はこの会社にもっと価値がある」と思っていると、GoodWillと呼ばれる無形の価値が時価総額を押し上げます。

創意工夫が会社の付加価値になります。

競争力の原点となる、Goodwillへの先行投資を実現するストーリー戦略が必要です。

そのために「モビリティで九州と世界をつなぐ」というビジョンの元に「九州創生」というミッションを掲げ、イノベーション推進していきます。しかし、最新技術を用いたイノベーションが社会に広く受け入れられるためには安心も必要です。
その安心において、量産で培い鍛えたトヨタの能力や実証実験、トヨタ生産方式が活きるのです。

トヨタ生産方式

2本の柱「にんべんのついた『自働化』『ジャストインタイム』」

(それぞれ、豊田佐吉、豊田喜一郎が発案したとされる)

自働化:人中心の考え方。人を機械の番人にしない。異常が発生したら機械が止まる。

機械ができることは機械に。異常検知のための見える化誰もが同じことをできる作業標準を作ることが必要です。基準があるから異常が見えるという考え方で、匠の技能を機械に織り込みます。人間の知恵と工夫を最大化するのです。

ジャストインタイム:必要なものを、必要な時に、必要な量だけ造る。

お客様が欲しい時に作る、資産を有効活用する、徹底的な無駄の排除の考え方です。標準作業を徹底(タクトタイム・作業順序・標準手順)、「基準を徹底」の考え方です。限られた量での限量経営にも触れられました。

大野耐一の鬼十訓

トヨタ生産方式を体系化した大野耐一氏の言葉を引用する場面もありました。

「君はコストだ!まず無駄を削れ!」という言葉です。

ムダ = 動き-働き つまり、動きの中で付加価値以外の部分は無駄であるといいます。

生産工程のムダについて。
事務仕事におけるムダについて。

トヨタ生産方式とDX

トヨタ生産方式が行うのは
「『基準』を作って見える化し、無駄を排除」

DXの第一歩は
『基準』をデジタルで見える化する」

この共通点より、トヨタ生産方式とDXの相性は抜群であると植野氏は語ります。

さらに、情報のジャストインタイム=必要な人に、必要な時に、必要な情報が見えるようにする。このトヨタ生産方式の特徴と、データを用いて改善を高速化するDXとの相性は抜群だと続けました。

トヨタ自動車九州のDX事例(MaaS実証:スタートアップ企業との協力)

DXとは既存の業務のデジタル化ではありません。先の読めないVUCA時代でも、困難な課題をデジタルの力で解決することです。

トヨタ自動車九州と、本企画のコーディネーターが代表を務める株式会社SUNABACO、その他多くの企業が協力し、MaaS実証事例として「ワクチン集団接種乗合サービス」を開発しました。

ワクチン接種乗合い送迎サービスをトヨタ自動車九州と株式会社SUNABACOで開発。

福岡県宮若市の65歳以上の方が2ヶ月でワクチン接種できるように最寄りの接種会場まで、接種時間にジャストインタイムで送迎するサービスです。

喫緊の開発であったため、なんと開発期間は3週間。アジャイル開発で作られたアプリケーションの特徴は以下の通りです。

  • 開発期間が短いため、ノーコード開発
  • 高齢化が進む市である背景より、電話をうけたコールセンターのオペレータが操作
  • ジャストインタイムの適切なルート選択は運送を担う地元のタクシー運転手が行う

機械ができることは機械に。人にできることは人に。 人の価値を最大化するアプリケーション開発と言えるでしょう。

トークイベント「イノベーションを起こす場を作る」

基調講演に続いて、会場に集まったゲストと共にトークイベントを行いました。参加メンバーはご覧の通りです。画像左から

  • コーディネーター 株式会社SUNABACO代表 中村良
  • 株式会社TRIART代表取締役 今津健太郎氏
  • 熊本県 企業立地課 主幹 古閑 瑞樹氏
  • 基調講演いただいたトヨタ自動車九州 次世代事業室 主幹 植野直亮氏

スタートアップ、先端技術開発企業、行政、トヨタ自動車九州。4つの全く異なるバックグラウンドを持つ組織から人材が集結しました。

トークイベントの様子。スタートアップ、先端企業、行政、トヨタ自動車九州と、4組織の人材が登壇。

先の見えない時代は、たとえ技術革新が起きても、社会で実際に運用して初めて、ニーズがあるのかわかりります。そのためには「技術の、実証実験」が必要です。

技術実証について

中村

これからの技術は実証実験が必要ですね。技術が本当に有用なのか確かめる必要があります

今津

東京には実験する現場がありません

しかし、技は現場でしか身につかない。

地方では現場が作れます。

植野

道路は規制が多いが、私有地であればいろんな実験ができます

中村

これからの公務員は、イノベーションに不可欠な、

実証実験を許可する役割」がありますね。

古閑

取り組みの成果が早く見えやすいのは、

地方ならではの特徴かもしれません

中村

実は、地方の問題を解決すると世界展開できます。なぜなら、世界の大部分は、都市部ではなくて「ローカル」だから。

熊本県だからこそできること

九州は自動車産業が盛んです。そこで、自動車産業とソフトウェアを組み合わせ、土地を使った自動運転の人材育成をする、という視点はどうでしょう。日本ではまだ進んでいませんが、自動運転の試行錯誤をするためのリアルの土地があるのは、地方ならでは。都市部にはない強みです

今津

実は自動運転は別々のシステムが互いに会話できるわけではありません。しかし、我々TRIARTは、厳しく無駄を減らすトヨタ生産方式の中で、全く異なるシステム同士を対話させ、通訳するシステムを作りました。

中村

これからの自動車はセンサーフュージョンです(筆者注:複数センサーを組み合わせて情報抽出する技術。詳しくはこちら半導体の企業が多い熊本県はうまくデジタル人材育成できれば非常に大きな可能性があります。

古閑

熊本県は出生率が高いが、UNITYなどを教える高度人材がいないから、東京などに人口流出している、高度人材を抱えれば、熊本で生まれた人が、県内で活動してくれるのではないか。

植野

高度人材が活躍するために、工場内でデジタル化して、学んで実践する場を仕事にするのもいいですね。仕事になることが重要で、そうでなければ実践は継続されていきません。

イノベーションに欠かせない仲間づくりについて

中村

実証実験、技術の実践には仲間作りが必要です。

今津

今はインターネット、SNSで人が繋がれる。昔はそんな繋がりは発生しなかったが、今なら地方でも人が繋がれる。

植野

課題を共有する街で仲間をつくる、それには地方の近い距離感が適切です。九州(福岡県)のGarrawayF(会いたい人に会える、トヨタのコワーキングスペース。詳しくはこちら)に、トヨタ中の面白い人が続々と集まっています。学びの実践の場があることこそが、イノベーションのエコシステムなのかなと思います。

中村

みんなが混ざる場が必要、人がつながるには場が必要。

熊本だから、地方だからこそできる取り組みを生み出す、人が集まる場づくりをこれからも続けていきたいです。

現地参加者の感想

現地参加者の方が感想を述べてくださいました。

管轄地域の主要拠点を結ぶ自転車貸出に取り組んでいる公務員の方。

「地方の移動コストは、電車の発達した都会に比べて非常に高いが、MaaSによってその移動コストを下げられることに期待したい。」

編集後記

今回のセッションを通じて感じたのは、「実践の現場は地方だからこそ作れる」という事です。
これからは、都市部ではなく地方の時代が来るのだなという感触です。

また、インターネットの発達も追い風となり、実践する仲間探しが簡単に行えるようになったという背景と、地方で成功した取り組みは、全国・全世界に展開できるというスケールの壮大さに心が躍りました。

学びを実践する場は地方にこそあるというイノベーション・エコシステムの観点が今後どんどん発展していくことに期待が高まります。