2021年10月9日(土)SUNABACO八代にて「途方におけるブランド」の演題で、トークイベントが開催されました。
アーカイブ動画は、YouTubeにて公開中です。
今回のセッションでは、地方をブランディングする際に一番知っておきたい内容を株式会社SUPER MARKITの秋山真哉氏と、SUNABACO代表の中村良(ナカムラマコト)氏が、わかりやすい解説を交えながら話しをしていただきました。
秋山氏は、福岡県北九州市出身の45歳。 中村氏とは幼馴染ということです。
2002年に義父から引き継いだコイン制作会社をエンタメ業界グッズの制作会社に大変身させ、現在は、「日本中の魅力にMARK IT!(マークイット!)」を合言葉に、魅力あるヒト・モノ・コトにフォーカスした地域マーケティング支援を行う会社を経営されています。
セッションは、株式会社SUPER MARKITの事業変遷に合わせて、以下の順で展開されました。
「ユーザー視点」「タッチポイント」「三軸進行形人材」
「エリアマネジメント」「統一コンセプト」
1.コイン制作会社からエンタメ業界グッズ制作会社への変身
トークイベントは秋山氏の起業の経緯からはじまりました。
新規事業のきっかけは、「新しいなにかがしたい。」と意気込みだけで、、面識もないエンターテイメント劇団に連絡し、「グッズをつくりませんか?」と、売り込みを行ったという、なかなか勇気あるエピソードの話しからでした。
その頃テレビで放映された、芸能人がエンターテインメントショーに出演するというチャレンジ番組に触発され、ある意味思いつきからの行動だった話しは興味をそそられました。
いきなりの提案にエンターテイメントの会社からは、「我々の商売は物を売ることではない」と断り言葉に、「劇場でグッズを売っていないのはサービスの欠落です」と押しの提案で相手に納得してもらい、見事受注にこぎつけ、今ではそのエンターテイメントの会社の需要な収入源になっているとのことです。
このエピソードは、ただの成功話ではなく、とても大切なメッセージが含まれていました。
ひとつは、『ユーザー視点』を大切にするという事です。
秋山氏は、「サービスの欠落」と断言した理由についてこう話されました。
「地方の観光地では、『ここには何もない』と言いながらお土産屋さんから出てくる人によく出くわします。しかし、ここから読み取れるのは、観光地に来た思い出を、なにか形にして残したいユーザーと、お金を落としてもらおうとするお土産屋の人達との、意識のズレがあることです。おもてなしなどのソフト面だけでなく、お土産品や街のグッズなど、形ある物も含めて、観光客へのサービスであるという事を意識する大切さに気が付かされました。
もうひとつは、『リスクを取ってやりきる力』をつくるという事です。
実績がない場合、ゼロイチをつくる際に必要なのは、できるかできないかギリギリのところでも「できます!」と言って、まずはやってみること。 そして、最終的に約束した事を嘘にしないための行動しやり切ることがとても大切なのです。
今後の地域活性も含め、不確実な課題に挑戦し解決するためには、今までのやり方だけでは通用しななったの中で、いかに自分でリスクを取りやりきるか、まわりも失敗を許容できるかが鍵
になってくるのです。
2.お笑い業界のコンテンツ価値最大化/コンテンツ×地域コラボレーション
Super Markit !では、数々の団体やロバート秋山さんのグッズなど、多岐にわたるグッズ制作を手掛けながら、地域とのコラボレーションも積極的に実施しています。
例えば、テレビの企画で、金物の街・燕三条が製造する「東京フォーク・スプーン」を開発したり、1社のみが製造する鹿児島県の宇宙焼酎(宇宙空間で培養された麹菌をつかった焼酎)をお笑い業界のコンテンツとかけ合わせて大ヒットさせたりといったものです。
宇宙焼酎の大ヒットなどは、今回の本題である「地方におけるブランド」を発掘するのにかかせないメッセージが含まれていいて、それは、地元以外の人の目を入れるということです。
この宇宙焼酎は、エンデバーが麹菌を宇宙に運び、持ち帰ったものでつくられており、当初は、鹿児島県の事業として10社の企業で製造していましたが、結果が振るわず、残り1社だけが継続されているという寂しい状況でした。
ところが、外の視点が入れたことで、忘れ去られようとしていた宇宙焼酎の価値は再定義され、新たな価値を持ち再び注目を浴びています。
中村氏は、「地方におけるブランド」の発掘についてこう話します。
自分の長所が自分ではわからないように、地方や地域の魅力・価値も、その土地の人には当たり前すぎて、なかなか発掘できない。今後、地域活性・地方創生を考える場合、いかに、地元以外の人を受け入れる土壌をつくれるかが重要になってくる。
3.地域コンテンツ価値最大化をはじめる/地方生活で感じていること
昨年から「地域コンテンツ価値最大化」に取り組んでいる秋山氏は、その取り組みの一環として、今年の7月から愛媛県民になり、東京・愛媛の二拠点居住を始めました。
なぜ二拠点居住なのかは、地域のブランディングには「三軸進行形人材」がキーマンになるからだというのです。
以前、来たことがある、住んだことがあるといった一過性の関わりでは、その街を知るには不十分で、変化の激しい時代においては、現在進行形で生活していなければ、その地域のライフスタイルやトレンドをタイムリーにキャッチできないからです。
地に足のつかない活動は、表面しか見えず、浅い活動になになりがちで、永続的に続くものにしたいと考えているようです。
「三軸進行形人材」とは、首都圏・中都市・地方都市で同時に生活している人のこと。
人口減少が確実な中、移住者を奪い合っても、一過性の対症療法にしかなりません。
それよりは、多拠点居住していて、その地域のことを知りつつ、他の地域の視点も持っているような「三軸進行形人材」を中心に、関係人口を増やしていくほうが、地方のブランディングをする上で有効だと言えます。
中村氏は、「三軸進行形人材」の価値について「あらゆる面で、今までのやり方が通用しなくなってきている。その背景には、人口減少による経済の縮小とインターネットの普及による価値観の多様化がある。都会・中規模都市・地方の状況を知る人の存在は、多様になった人々が何を必要としているか明確に伝える事ができ、今の地方には必要だ。」といいます。
経済成長は人口の増減に比例し、人口が増加し経済成長している時は誰もが同じやり方で結果を出せますが、人口が減少し経済が縮小する中では、同じことをやっても結果は出せず、逆に失敗する確率が高くなります。
また、インターネットの普及により、マスの価値観・共通の価値観が破壊され、個の価値観が尊重されるようになった現在、今までのようなマス向けのブランディングでは、どうしても取りこぼしが多くなりがちな中で、常に多様な視点をもって、個の価値観やライフスタイルをタイムリーにキャッチできる「三軸進行形人材」の存在は、とても価値が高いのです。
なぜ、秋山氏は地方に目を向けたのか。
テレビというマスメディアの力が弱まり、個がメディアとなって世界に発信できるようになった中で、世界遺産がある地方の方が絶対的に有利です。
その土地でしかできない「こと」その土地でしか見られない「もの」がある、地方には価値があります。
4.《稼ぐため》のブランディング(妄想)=情報×タッチポイント
ブランディングとは何か。秋山氏の定義によると、ブランディングは《妄想》、その目的は《稼ぐため》で、どのように妄想してもらったら稼げるかを考え、行動することがブランディングだといいます。
ブランディング施策は3つの段階があります。
それぞれの段階に合わせて行動を行い、それによりブランディング(妄想)は、
「情報×タッチポイント」で生まれます。
ブランディング施策
①知らない人に知ってもらう段階
②知っている人に好感を持ってもらう段階
③好感を持ってくれている人にもっとファンになってもらう段階
中村氏は、「カッコいいホームページ(情報)があっても、第一段階の知ってもらうため
(ホームページを訪れてもらうため)のタッチポイントがない限り、そこは情報の墓場と化してしまうのだ。」といいます。
また、ブランディングの例として、ローソンの「おうちカフェ」と農業の6次産業化をあげて説明されました。
「おうちカフェは、百貨店で売っているような美味しいスイーツをコンビニでも購入できるようにしたもの。一見、コンビニで美味しいスイーツを販売しただけに見えるが、そこには深夜の来店客数を増やしたいコンビニ側の課題解決と、最終目的である《稼ぐため》の設計が施されている。実際に、24時間、美味しいスイーツが手に入るとあって、深夜の女性客が急増し、収益も上がった。」
逆に、農業の6次産業化は、全国的に上手くいっていないのはなぜでしょう。
ユーザーがほしいもの(需要があるもの)ではなく、地域にあるものを売ろうとしているからです。つまり、最終目的である《稼ぐため》の設計が重要なのです。
具体的に、ブランディングは、どのような手順で行うのか の説明です。
まずは、「ブランディング(妄想)=情報×タッチポイント」のうち、情報をつくるところから始まます。
情報は、①今の立ち位置を確認し、②存在価値を定義し、③将来像(約束)
④キャラクター の順に決めていくことでつくられていきます。
この時に絶対忘れてはならないのが、②の段階で、三軸進行形人材を入れて価値定義することです。なぜなら、地元の人には当たり前すぎて、地元の存在価値が100%わからないからです。
ここでいう価値とは、機能的価値と情緒的価値のことで、物があふれている現代では、機能的価値はどれも平均的で、圧倒的に情緒的価値が重んじられています。そのため、地域にある良い商品(機能価値のある商品)を単体で売るだけでは勝負ができません。その為には「情緒的価値を高めるための地域(エリア)マネジメントをする」ことです。
「八代って○○って感じのところ」というイメージを全国に知ってもらい、その統一
コンセプトをもって、各商品を売っていく。そうすることで、八代のライフスタイル
自体を商品化することにもつなげられるという。
次にやるのは、タッチポイント(顧客との接点)づくりについて、重要になるのが「三軸進行形人材」です。それはなぜか。仮に八代の商品を東京で売りたい場合、現在進行形で東京に住んでいる人でなければ、東京のライフスタイルやトレンドがわからず、効果的な商品の露出場所を確定できないからです。多拠点居住をしている中村氏は、この場合のタッチポイントについてこう話します。
百貨店の催事だと、他の商品に埋もれてブランディング効果は薄くなる。逆に、
有名な外資系のお店だと、同じ商品でも印象がアップし、シビックプライド(市民の誇り)を醸成するくらいの効果が期待できるのだと。こういった効果的な場所を見出せるのも「三軸進行形人材」ならではなのだ。
タッチポイントを考えるうえで、もう一つ大切なこと、特に農産物を売り込む際に必要な観点は、売手側と販売店側には必ず意識のズレがあるということを意識する事です。
秋山氏が取り扱った愛媛のジュースは、旬のものを売りたいが生産不安定で十分供給が確保できるかに不安を持つ売手側と、供給が安定し、販売しやすいもの(特に関東圏では、賞味期限が長く、原価率の低いもの)を売りたい販売店側とのすり合わせに時間を要したといいます。
販売店側は、年間の販売計画を立てる際に、月の出品数を決める為、出品数が不安定な商品は不利になります。
また、この商品は、品質を下げないためにも1リットル瓶で売る必要がありましたが、都会では持ち運びに不便な大きなものや重い物は敬遠されます。
不利な条件の多いこのジュースを販売可能にするためには、販売店側の理解と協力が不可欠になってきます。
秋山氏が販売店側に語ったのは、他店にない旬のものを扱うメリットと、旬のものを扱うために生産者と向き合うことの必要性でした。また、品質のこだわりを示すためにラベルをつけず
コストダウンを図ったり、キャッチフレーズに、「この瓶を囲んで家族の時間をつくりましょう」とプラスのイメージをつけ、マイナスをプラスに転じさせました。地方から商品を売り出す場合、販売店側を説得できるだけの材料をもつことも考慮するのはとても重要です。
タッチポイントには、店舗、自社Webサイト、報道、広告などさまざまものがあります。中でも
報道・口コミの信用度は高く、地元にゆかりのない人の発信はとても効果があり注目すべきです。なぜなら、地元にゆかりがない人が、その地域のファンになって発信しているものは、広告感がなく、真実味があるからです。このことからも、タッチポイントごとの戦略の必要性を強く感じました。
5.Super Markit !のタッチポイントづくり
このコロナ禍、「試食販売による商品のPRができなくて困っている」という声を受けて立ち上げたのが「Super Markit!DELI」地域の旬の食材を使った月替わり弁当をフードデリバリーする
取り組みです。
これも、フードデリバリーに馴染のある「三軸進行形人材」ならではの発想です。
この取り組みは、お弁当を売って儲けることが目的ではなく、地域をブランディングし、販路開拓することが目的です。
そのため、デリバリー後のアクションを促す工夫が施しています。
お弁当には、使用された食材を紹介するチラシが添付されています。気に入った食材は、チラシに書かれたQRコードを読み込み、ECサイトで購入できるようになっています。
ここで重要なのは、食材の生産者探しをしてくれる地域の人材と価値発掘のできる三軸進行形人材が共創すること。そして、地域の食材が買いたい時に買える仕組みをつくっておくこと。 なぜなら、三軸進行形人材だけでは、生産者探しに限界があり、買いたい時に買えない機会ロスは、ブランド イメージを傷つけてしまうからだ。
秋山氏の取り組みには、一つの信念があります。一時的な「やって、おしまい」の事業者にならないこと。そのために、地域の課題を発掘し、取り組みに賛同してくれる地域の人達と結びつき、課題解決できる仕組みを先につくることです。
そうすることで、やって、おしまいの何も残らない活動ではなく、地域の課題解決とともに、そのノウハウを残せる活動になるからです。
Super Markit!は、タッチポイントづくりとして、「Super Markit!POP UP SHOP」という
活動も行っています。この活動は、一言でいうと、地域の壁を取っ払ったイベント開催の取り組み。例えば、日本にある「島」や「村」にフォーカスした物産展を開催したり、新潟米と愛媛米を対決させるエンタメ要素を入れ多くの人に興味をもってもらう取り組みです。
最後に、避けては通れないSDGsの取り組みについての話しです。
SDGsのことを考えながら地域をまわっていると、当たり前すぎて見えていないものがSDGsにつながっている可能性を感じるといいます。そのため、新たなことをする前に、今一度、身近な地域の生活や文化を見直すことを提案されました。
中村氏は、総括として以下のように話しました。
ホームページやECサイトを立ち上げたからといって、ただちに収益が上がるものではないのです。これから地方の商品を売るのに必要なのは、以下の3つのポイントを重視する事です。
3つのポイント
①商品に触れてもらうためのタッチポイントをつくること。
②最終的に買ってもらうためのランディングポイントをつくること、
③地域の印象、統一コンセプトを決めること。
6.質疑応答
- 「三軸進行形人材」が独りよがりにならないためには、どのような工夫が必要か。
-
都度、新たな三軸進行形人材(多業種)を集め、チームをつくるとよい。
三軸進行形人材には、ある時点から、その地域のことを知れば知るほどその地域のことが見られなくなる現象、スコトーマ(心理的盲点)が発生する。新たな人材を入れることで、新鮮な感覚が呼び起こされ、禅でいうところの「私は未だに何もわかっていない」という姿勢を取り戻せるという。
補足
-
愛媛と同様に、八代にも多くの柑橘類が存在する。一つに絞り込むにはどうしたらよいか。
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商品単体ではなく、統一コンセプトでブランディングするとよい。
活動例として取り上げた愛媛のジュースの販売目的は、愛媛に柑橘系のイメージをつけることではない。愛媛の統一コンセプトは「まじめえひめ」(ロゴは柑橘系を想起させる色ながら愛媛の県民性を表現)で、このイメージを持ってもらうために様々な活動をしている。
補足
Super Markit!の活動はその一部。商品単体を推すよりも、地域全体のイメージをつくるほうが重要だ。
編集後記
今回のセッションを通じて感じたのは、ポイントを押さえた、適切なブランディングとマーケティングの重要性です。
私の住む地域は、観光農園、アクティビティ施設、温泉があるエリアにもかかわらず、他の地域よりも高齢化率が高く、今一盛り上がりに欠けています。こういった地域に、「三軸進行形人材」が来た場合、何が価値として発掘されるのだろうかと考えました。
「地方ブランディング」は、思ったよりも身近な課題です。今回のセッションは、何らかのアクションを起こしたい方々の、大きなヒントになったと思います。
セッションの終盤、「次回は、ラウンドテーブル形式で開催しましょう!」といった中村氏の一言がありました。
次回も見逃せないセッションになりそうです。