2022年8月18日にSUNABACO八代にて行われた、ハードウェア「インスタコード」をゼロから立ち上げた一人社長、ゆーいちさん、魂のこもったコンテンツを生み出し続けるGOROmanさんとSUNABACO中村まことのトークイベント「誰でもメイカーになれる時代のヒット商品の作り方」。
この記事では、そんなトークイベントの内容をお伝えするイベントレポートをお届けしていきます!
登壇者紹介
ゆーいち
ゲストスピーカー
誰でも弾ける新しい楽器「インスタコード」開発者 http://instachord.com 作曲家・販促コンサルタント コミックバンド「おふろdeアフロ」ボーカル担当 http://mu-sup.com/afro OFR48 作曲担当 http://ofr48.com
GOROman
ゲストスピーカー
本名、近藤義仁氏。ゲームプログラマとしてコンシューマタイトル制作に関わり、描画エンジン・アニメーションエンジン等を開発。現在は個人でも“GOROman”としてコンテンツの開発や様々な講演に呼ばれるなか、もっぱらゲーム機の改造をしたり、Twitterをしたりと多忙の日々を送っている。
中村まこと
https://twitter.com/nakamakoko
モデレーター
シリアルアントレプレナー
アクセラレーター
UXデザイナー
テクノロジストとして数々のスマートシティ、
シビックテックなど先進プロジェクトをリード。
日本最大級のプログラミングスクールSUNABACO代表として、
リカレント教育、次世代の教育に関わる。
ぱっと弾けて、すぐ楽しい。
まずはゆーいちさん、自己紹介をお願いできれば。
こんにちは。電子楽器「インスタコード」を開発しましたゆーいちと申します。大学卒業後、中学校の教員をちょっとやったり広告制作会社で働いたりしていました。
趣味で始めた音楽が仕事になって、アコーディオンと歌の2人組、おふろdeアフロというユニットで、全国の温泉施設などで演奏するということをやっていました。年間で多いときだと100本くらい、他の仕事もやりながら副業でミュージシャンをしていました。
そんな私がある時、発明をしました。それが、誰でも弾ける新しい楽器、「インスタコード」。
その楽器、約2年半くらいかけて製品化して、発売から1年間の売上が1億円を超えました。
これめっちゃ気持ち良くないですか?脳汁出まくりですよね。
楽器って、苦しい思いをずっとしないと楽しいまでいかないんですよ。サッカーなら、ボールがあれば3歳児でも蹴って動くだけで楽しい。スーパーマリオも、全然操作できなくても右のボタン押してたら穴に落ちてゲームオーバーになっちゃったりして。でもそれもなんか楽しいじゃないですか。
楽器でも、そういうのがあってもいいんじゃないかと。全く経験がなくても、最初に楽しいって感じる楽器って中々ない。だから、それを作ってみたんです。
中身の言えない市場調査
まずは、ゆーいちさんからインスタコードの開発秘話を伺います。
1曲で使う主なコードは6つしかない。だから、それを電卓みたいに並べた楽器を作ればいいなとなった。それで、こういうインターフェースはどうだろうと最初は紙で作ったんです。
この紙を使って知り合いのミュージシャンとかに見せて色々意見を聞いています。でも紙だと中々伝わりにくいんで、その後ちょっと工夫しました。木でも作ったんですね。
で、この音の出ない木を弾きながら、こういうものを作りたいんだって見せて回っていました。いろんな人に見せて、作れる人を探していったって感じですね。
ただ、本当に売れるのかっていうのをやっぱり確かめないと、特許の出願だけでも何十万とかかるから、そんなお金を払うのはちょっとしんどい。でも、確かめるために中身を言っちゃうと、新規性が無くなって特許が認められないんですよ。
なので、内容を伏せながら市場調査をしました。ここが一番大事だったなと今でも思うところで。
アンケートをして、これらを解決できれば、弾きたいのに弾けないという欲求を解決して売れるんじゃね?って思いました。でも、僕は商品開発ではいつも自分を疑わなきゃいけない、確実に自信が持てるまで根拠を集めようと思っていて。ということで、またさらに、何か白い物体を持っている人の姿を見せて、いくつか質問をしました。
どの項目も50%以上が魅力に感じると回答してくれました。
これなら売れるかなと思って、さらにそれがいくらだったら欲しいですかっていうのも聞いて。
1万円程度のものを作ろうとなると相当大量生産しないと難しいけど、3万円程度だったら購入を検討するっていう人が結構いるってわかって、それだったら製品化してもいいかなと。
(編注:インスタコードの販売価格は¥34,980)
ちなみに、普通小売価格を決めるときって、ジャンルによりますけど製造原価がだいたい10%から30%、つまり製造原価に対して3倍とか10倍の定価にしようってふうに決めます。なぜなら、間に問屋さんやメーカー、小売店の利益が乗っからないといけない。
ただ、インスタコードの場合さっきのアンケートで3万円くらいっていう一つの答えが見えていたんで、最初に値段を決めちゃったんですね。それで、やむを得ずメーカー直販にして、なんとか薄利で売れるような仕組みを作りました。
3Dプリンターでユーザーがパーツを作ってくれた楽器
ここからは、GOROmanさんも交えトークセッション!
ほんとうはハードとしての製作に関するお話などもあり、興味深く勉強になるお話が盛りだくさんだったのですが、そちらは是非イベントのアーカイブ動画でご確認ください!
今、メーカーが想定しない使い方をファンが作ってくるっていうことができてきていて。インスタコードでもそういうことはあったんですか?
僕はめちゃくちゃやってますけどね。笑
酷いことしてますよ。バラバラにしたりとか、ペダル対応してますからね。僕の。
穴を開けて別のコントローラー繋げられるようにしてる人とかもいたりして。
だから、これはもうインディーズだからできることだと思って、3Dデータを公開してるんですよ。
すごい。
ユーザーの方の不満で、側面にボリュームスイッチが付いているので体が触れてボリュームが変わってしまうというのがあって。
僕はボリュームのつまみ抜きましたね。笑
そう。そういうことが起こっていて。なので、このボリュームを動かなくするためにガード装置を作ってくれた方がいて、3Dプリンターで1,000円くらいで販売してくれてて。それも、ユーザーの方が作ってくれたオプション品として公式ホームページで紹介しています。
まさに、使う人とメーカーの関係は劇的に今までのプロダクトとぜんぜん違うんですよね。
ものづくりの仕方が全く変わってきている。たぶん昔は3億くらいないとインスタコードって作れなかったんですよ。それも、1人がインターネットがあっていろんな人に繋がることで作れるようになってきている。
さらにマーケットに市場調査をライトにできて、それをもとに市場の欲しい物が作れるっていうのは、すごいイノベーションなんですよね。
人柄の見えるプロダクト
普通のメーカーだと大きな体制を作ってバグチェックとかもしなきゃいけないけど、それをちょっとユーザーの人に申し訳ないけど人柱というか、やってもらいながらブラッシュアップしていて。
こないだファームウェアのアップデートがあって印象的だったのが、バグがあったんですよ。それがすぐバグがありましたって言っちゃって。
そう。1.4.1のメールが次の日に届いてびっくりしましたね。笑
「ごめんなさい!バグってます!」みたいなタイトルで来て、正直すぎる!!って。なんか許しちゃうよね。
もう正直今の体制では新しいバージョンにアップデートした時にバグを見つけきれないんで、ユーザーの人が見つけてTwitterとかでつぶやいてくれて、ああそうだってすぐ治せたんですね。
そうやって何かみんなで作ってくれてるっていう意識をユーザーの人にも持ってもらえる状態になりましたね。
なるほど。お話を聞いているとプロダクトとかサービスとかって、人の優しさみたいなものとか、人格があらわれるもので、成功するかどうかって結局人なんじゃないかなと思うんですよね。
ゆーいちさんのインスタコードはそのへんがあるというか。
生産者の顔が見える野菜みたいな感じで、顔の見える楽器。だからファンが多いんだと思いますね。
ゆーいちさんって、教職の免許とかを持ってますから、プレゼンとかYoutubeの動画がめちゃくちゃ分かりやすくて。
僕、コードとか本当に分からなくて、CとかDマイナーとかってほんとに分からなかったんですけど、湯〜いちさんのYoutubeのコード講座がめちゃくちゃ分かりやすくて、小学校の授業でぜひこれを聞きたかった!みたいな気持ちになりました。
あの動画でインスタコード買ってくれた人は結構いて、ユーザーの人にもみんな見てほしいですね。
まさにそういうところまで考えて作っているところが、やっぱり人柄なんだなって思いますね。
理念が一貫してぶれてない感じがしますよね。
理念に外れたことは、しない
ユーザーの声と自分のやりたいことが相反したとき、どんなふうに考えていますか?
相反した時は、自分の意見を尊重します。それは、自分が誰より一番触っている自信があるからそうしています。
ちなみにGOROmanさんはこういう時どうします?
自分の中にベクトルを持ってて、そのベクトルに近いかどうかで判断します。それが相反していくと、つまり自分の理念から外れていくと多分嘘になるので、それはブラさない。
まさにスタートアップって自分の理念と市場とを天秤にかけながら正解が分からない中での模索だと思うんですけど、その時どれくらい自分の理念を大事にしてますか?
さっきのプレゼンで何度かあったように、「自信を持つな」っていうのを前提にしています。なので、裏付けがあるから自信が持てるっていう考え方をしていますね。
次に雇うなら、どういう人ですか?
ちょっと事業計画的な話にもなるんですけど、僕はこのインスタコード株式会社の規模を大きくしようと思っていなくて、人は増やさないです。この事業はどこかに譲渡する予定でいます。
なるほど。
というのも、今は1ロットの製造費は何千万円で済んでいますが、何万台、何十万台となると、何億、何十億を払わないといけないという規模になるんですね。それを回していくと売れなくなった時に借金が残るし、怖いのもあります。
まさにAppleが初期に行き詰まった理由ですね。
VC入れちゃうとスケールしないとまずくて、IPO目指すとかEXITしないといけなくなっちゃって、そうするともう自分の理念を曲げる必要がある、ってことになっちゃいますよね。
【編注】
・VC:ベンチャーキャピタル。ベンチャー企業への投資ファンド
・IPO:新規株式公開。いわゆる上場と同じような意味。
・EXIT:IPOなどで利益を獲得すること。
(ここでは、投資を受けると利益獲得のために会社を経営していく必要が出てくるため、創業者の理念だけで経営できなくなるといったニュアンスの発言です。)
昔はスタートアップは資金調達しないと大きなEXITはできないと言われていたんですね。でも最近はベンチャーキャピタルみたいなものを使って資金調達をしなくても、さっきの例にあったように小さく市場調査をしながら売れることが見えれば、ちゃんとEXITとかを考えることができるようになってきている。
日本ではスタートアップという考え方はまだまだ浸透してないように思いますが、ゆーいちさんのインスタコードも、そんな文脈の中にあるんじゃないかと思っています。
そうですね。ベンチャーキャピタルが入ったらサブスクモデル作れとか言ってきて、お金を生むための仕組みを作ることになっていく。それはビジネスとして考えたらそうなんですけど、これは別にビジネスじゃなくてひとつのプロダクトなので。
ゆーいちさん、GOROmanさん、この度はありがとうございました!
記事では泣く泣くカットしてしまったのですが知的財産について、仲間集めについて、ハードウェア製作について、クラウドファンディングについて、など、起業を考える上で必聴の内容が盛りだくさんでした!イベント本編の全編はアーカイブ動画にて確認できますので、是非ご視聴ください!
また、トークイベント後にはインスタコードを湯〜イチさん自ら分解・修理する様子も配信させていただきました。こちらも要チェックです!!