UX戦略からみるアイカツ! 〜なぜ実写化を決めたのか?〜

こんにちは。SUNABACOスタッフのカンパネルラです。

2012年から2次元キャラクターのコンテンツとしてクロスプラットフォーム展開がされてきたアイカツ!シリーズですが、2021年から放送の新シリーズにおいて実写と混合したコンテンツ化することがこの記事を書いている前日に発表され、主に大きなお友達たちを騒がせました。いったいどうしてそのような決断が行われたのでしょうか。ここでは、プロダクトをいかにして生み出しいかにして使ってもらうかというUX戦略の観点から考えていきたいと思います。

UX戦略でプロダクトをつくるとは

そもそも、UX戦略でプロダクトをつくるとはどういうことなのでしょうか。

詳細な説明は専門の書籍等に譲るとして、ここでは「ユーザー体験をベースにプロダクトを設計し、仮説検証を繰り返しながら市場に合った価値を提供していくプロセス」として話を進めたいと思います。(それ専門の記事ではないので細かいところはご容赦ください)

具体的には、以下のようなプロセスを想定しています。

現状把握と行動分析

誰にどんな問題があるのかを考え、実際に「ユーザーになって」何が必要なのかをとらえる

戦略立案

誰の何を解決するどんなプロダクトをどんな手法でどうつくっていくのかを定める

小さくつくる

価値を提供できる小さな形でプロダクトを開発し、リスク小さく市場投入する

結果を回収して価値の検証

自分たちの提示するプロダクトが本当に市場の中で価値を提供するのかを確かめ、価値提案を見直し続ける

戦略立案のところでリーンキャンバスやインセプションデッキが、小さくつくるのところでMVP、価値の検証でPMFの考え方を使うようなかんじのことをイメージしています。これらが完成してはじめてグロースのプロセスに進む形です。このあたりの細かいことについてはSUNABACOのデザインコースを受けてください。この記事の執筆現在、完全オンラインで募集中です。(露骨な宣伝)

アイカツ!プロジェクトのUX戦略

それを踏まえた上でアイカツ!プロジェクトのUX戦略の検討に移りたいと思います。

アイカツ!のプロジェクトがリリースされたのは、2012年。これは、シリーズ9作目にあたる「スマイルプリキュア!」が放映され、プリティーリズムが稼働しておりプリパラが登場する前、くらいにあたります。

さて、そんな中で、企画陣のインタビューなどを読むとアイカツ!シリーズはターゲットとして「ファッションやおしゃれを気にし、大人への憧れも抱き始める7~9歳の女の子」を掲げていることが分かります。

ここからビジネス戦略を言語化するためのテンプレートであるリーンキャンバスを推測していくと、②顧客セグメント にそれがそのまま当てはまり、①課題 は「大人のファッションやおしゃれを手にできない」という、お金、身長、親の制約..様々な制限を抱える子供ならではの問題が見えてきます。ということは、アイカツ!シリーズのリーンキャンバスはざっくりと以下のように捉えることができるのではないでしょうか。

課題

お金や身長、親など様々な制約から大人のファッションやおしゃれを味わうことができない

顧客セグメント

ファッションやおしゃれを気にし、大人への憧れも抱き始める7~9歳の女の子

独自の価値提案

アイカツ!シリーズは、自由にお金を使うことも大人用のおしゃれを身につけることもできない女の子たちに、仮想的にそれらを体験させるシミュレーションのシステムです。

ソリューション

アニメで夢を見せることで何ができるのかの価値をイメージさせ、アーケード筐体で実際に自分の手で体験させる

チャネル

女の子が自然と見るような時間にテレビアニメを放映する

収益の流れ

一連の体験を通して「アイカツ!」という世界のファンになってもらい、IPビジネスとしてグッズ収入で売上を立てる

コスト構造

アニメ制作費+筐体の運用費+人件費等

主要指標

獲得:アニメ視聴率
アクティベーション:筐体の稼働率
定着:学生証での継続率計測
収益:グッズ売上
紹介:アンケートなどでの市場調査?

圧倒的な優位性

「大人みたいなことがしたい」という願望に対して、明確でリアルな「体験」を提示していること

これらは、アニメのキャラクターだけでなく「マイキャラ」というある種のアバターをアーケード筐体内で作成できるシステムになっていること、カードで着替えるというフィクションそのものを価値とし、逆にその点以外のすべてをフィクションにしないことで「仮想体験」を成立させていること、その体験を「セルフプロデュース」と呼んでいること、プリキュアなどとは違う「変身願望ではないリアルな越境」を演出していることなどからも伺うことができます。

結果の回収と「アイカツプラネット!」

さて、結果から言うと、アイカツ!というプロジェクトは初年度、次年度こそ大きな売上を上げたものの、その後先細りの結果となりました。先の分析ではキャラクターや物語などのコンテンツそのものではなく「子供という制限から解放されて仮想的にファッションやおしゃれを自由に楽しむことができる」ということを価値として定義していたので、それに従うならば仕組み的な改善が必要です。

2020年8月10日に発表された「アイカツプラネット!」

アイカツ!のプロジェクトがスタートしてから7年の月日が経過し、小学生ほどの年齢に至るまでスマートフォンが広く普及して匿名性のSNSやソーシャルゲームが一般化し、「アバター」という概念がより当たり前のものになりました。

そんな中で、現実と仮想世界をリンクさせるというイメージをより強く印象づけ、アバター化したバーチャルな自分を「セルフプロデュース」していくという「アイカツプラネット!」という企画は、このプロジェクトの当たり前の道筋であり、技術と文化の進歩に合わせた当然の変化のように自分には思えるのです。むしろ、そう考えると遅くすらあったように感じられます。

余談として、この「アイカツ!」というプロダクトを物語として消費してきた「大きなお友達」からすれば「物語」としての変化は受け入れられないのかもしれません。ただ、UX戦略から見ると、全体の戦略は何も変わっていないな、というのが自分の見解です。

大きなお友達はUX戦略的に「顧客セグメント」外であるので、企画チームの設計したUXをそのまま享受できないのは、当たり前のことです。
逆に今まで僕たちが「アイカツ!」というコンテンツを楽しめていたのは、UX全体の中から「キャラクター」と「物語」という限定的な部分だけを取り出して消費していた形なので、今後「アイカツプラネット!」に関しても文脈を排して見ることができれば今までと同様に楽しめる人はいるのかなあ、なんて思います。

ここで自分の「大きなお友達」として物語への是非を語ってしまうと本稿の趣旨から外れてしまうので別の機会としますが、少なくとも企画と経営戦略の観点からすれば、こういう見解になるのかなあ、というのを感じてもらえていれば嬉しいです。アイカツ!側からこの記事に流入してくる人、多分大きなお友達しかいないでしょうから。。

さいごに

いちおうここはプログラミングスクールのWebメディアなので、宣伝を入れておきます。

この記事は、Hanahanaworksが運営するコワーキングスペース&プログラミングスクール「SUNABACO」のメンバーが執筆しています。

SUNABACOではデザインコースとして、今回のように「世の中に必要とされるプロダクトを正しく考え、正しくつくるにはどうすればよいか?」を1ヶ月かけて学ぶコンテンツをご用意しています。

アイカツが俺たちのアイカツじゃなくなったと感じたなら、俺たちが俺たちのアイカツをつくればいい。きっと「うんうん、それもまたアイカツだね」と言ってくれることでしょう。(ほんとか?)

SUNABACOではプログラミングスクールやデザインコースの他に、休日には様々なイベントを定期開催しています。イベント情報は公式サイトやTwitterで入手することができるので、そちらも是非。

一緒に学び続けましょう!アイ!カツ!アイ!カツ!!

https://sunabaco.com

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